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上場会社のトークン発行スキームについて

先日こんなツイートをした。

https://twitter.com/crypt_cpa/status/1566811318027689984

タイトル通り、「上場会社がトークンを発行するためのテクニカルなスキーム」としてワンチャンあるかも?と僕が勝手に思っているスキームだ。

このツイートは僕の中ではけっこうバズったものの、一方で、ごもっともなご指摘もいくつかいただいているので、少し行間を埋める形で丁寧に解説したい。

 

まず前提として

本件は「上場会社」に限っている(上場準備会社含むが)。

議論の対象は上場会社特有の「企業会計」と「会計監査」の2点。

上場会社を対象にした「企業会計」と「会計監査」について話を進めていく。

 

「web3監査法人問題」と揶揄される問題を最近頻繁に耳にする。

具体的には以下2点

・トークン発行すると無条件に監査は受けられない。

・契約済みの上場会社がトークンを発行すると監査契約を打ち切ることをほのめかされる

これはトークンの発行を計画している会社からすると大きな問題だ。そして、このツイートはこの問題の後者。「監査契約を打ち切るぞ!」と脅されている上場会社を主な対象にしている。

 

目的とゴール

この「監査契約を打ち切る問題を突破するにはどうするか?」という問い対する現時点の僕なりの仮説がツイートした内容になる。もっと言うと、会計基準の文言の解釈と運営上一義的に会計基準を解釈する権限を持っている監査法人を潜り抜けるための方法論だ。

繰り返しになるが、監査法人の主張は「トークン発行すると監査契約を打ち切る」だ(多分正確には「トークンを販売すると監査契約を打ち切る」だろう)。

では、この主張に対する打ち返しは「トークンを発行していません」ということになる。

しかし、トークンは発行したい。

であれば、目指すところは「トークンを発行せずにトークン発行と同じ結果をどうやって達成するか?」ということになる。

自社ではトークンを発行せずに、トークンを発行している資本関係のない外部の会社を吸収合併することで、仕上がりとして「暗号資産を発行した」という実績を達成しようというものだ。

 

なんで、こんな形式を取り繕うようなことをするような面倒くさいことをする必要があるのか??多くの方は疑問を持たれるだろう。

至極真っ当な意見だ。

でも、、経理部と監査法人の間では「悪ふざけなの?」と思われるような議論をすることが実際は多く、「どうでもいいじゃん!そんなこと!!」っていうことで現場ではしのぎを削っている。そして、これもその類の議論だ。

以下では、この言葉尻を捕らえただけの悪ふざけのような議論を真剣に展開するので、アホらしいと思われた方はここから先を読み進めるのをやめることをお勧めする。本当に馬鹿馬鹿しいので。興味がある方のみお付き合いいただきたい。

 

さて、本論

収益認識会計基準によると、「資金決済法における定義を満たす暗号資産に関連する取引」は除外するとされている。

この文言を実務に沿って捉えると、「暗号資産の発行」については、収益認識会計基準では取り扱えない。つまり、会計処理ができないというように読める。多くの方はこのように理解するのではないだろうか?

「トークンを発行すると監査契約を打ち切る」という背景もこの辺りにあると推測される。

よって、「収益認識会計基準の適用除外には抵触していません!よって、監査契約を打ち切らないでください!!」というのが、今回のチャレンジだ。

 

ここで多くの方からいただいたご指摘は、、

トークンの無償発行はできる。従って、上場会社であっても無償発行を行って、後日DEX(or CEX)上場して流動性出すのは問題ないのではないか?

という趣旨のもの。

 

この意見には僕も実は賛成で、ロジカルに考えるとおっしゃる通りという意見だ。全く違和感はない。ロジカルに考えると。

 

しかし、、

改めて、収益認識会計基準の文言を見ていただきたい。

「資金決済法における定義を満たす暗号資産に関連する取引」とあり、解釈次第ではスコープを大きく取れそうなワードが2つ入っている。

「関連する」というワードと「取引」というワードだ。

「関連する」というワードはどこまでも広く解釈することは可能。「直接的」の指定がないので、「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないが、「間接的には、、、、」という枕詞を使えば、無限に解釈を広げることが可能となるマジックワードだ。

(蛇足だが、法律の条文を書いたり、契約書を作った(or レビューした)ことがある人であれば、この辺りは明確に意図を持っている、あるいは敢えて意図を持たせずに解釈に委ねさせるような意図があることはご理解いただけると思う)

「取引」というワードを会計上に観念すると、「資産、負債、純資産、収益、費用の増減すること」(会計用語辞典(日本経済新聞出版社))となる。

一般名詞の「取引」の定義よりも圧倒的に広い。

この2つのファジーな単語を掛け合わせた「関連する取引」の拡大解釈をされる余地を監査法人に与えてしまうことが何よりも気になるというのが僕の大きな懸念点である。

収益認識会計基準の適用対象外の余地を拡大解釈されると、他に暗号資産に関する会計処理を基準がない以上、会計処理をできないだろう。よって、企業が会計処理ができないのだから、監査をお断りせざるを得ない。という監査法人の論理が説得力をもってしまう。

 

そこで、これを何とか潜り抜けるのが、ツイートの手法。

関連する部分のみ再掲する。

上場会社のトークン発行スキーム

1)資本上場会社のトークン発行スキーム

2)ペーパーカンパニーがトークンを無償発行

3)ペーパーカンパニーを消滅会社とする吸収合併実施

4)トークンをDEX上場(or IEO)

以上、自社発行せずにトークン上場完成

 

ポイントは上場企業、もしくは上場企業の子会社含む連結企業グループの中ではトークンを発行しない。発行した事実を決して残してはだめ。仮に無償であっても。

確かに無償でトークンを発行したら対価を得ていないので、会計上仕訳は起きない。BS, PLは全く動かない。だから大丈夫だろう。そして、後日、無償で発行したトークンに流動性が生じ、マーケットで時価がつくのだから、トークンの無償発行と発行したトークンは別の取引であり、問題はないはずだ。というロジック。これは極めて真っ当だし、僕が監査をする立場だったら、この見解を何の違和感もなく受け入れる。

しかしだ、、「暗号資産に関連する取引」という拡大解釈が可能なファジーな会計基準上の文言がとても気になる。

まず、トークンの上場。これにより時価がつく。この瞬間にトークンは暗号資産に定義される。トークンエコノミクスで自社にアロケーションしているケースだと、資産に値段がつく。つまり、資産が増えて、収益が計上される。会計上の「取引」の定義に該当する。

次にこの暗号資産に「関連する」取引を見てみよう。

トークンの無償発行という(一般名詞としての)取引は、上記の「暗号資産(になった)取引」と「関連している」と主張される可能性はないだろうか?

トークンの無償発行は、トークンに時価がついた「会計上の取引」に直接関連しているからだ。

「いやいや、、、トークンの無償発行とトークンのDEX上場は年度が違えばオッケーでしょ!」という批判も成立しうる。確かにそうだ。年度をまたぐと会計帳簿を一度締める。よって、年度が変わったからオッケーという反論は説得力を持つ。

しかししかし、、会計基準は「会計年度」については一切謳っていない。よって、年度が変わったからオッケーという反論も打ち返される可能性は残る。

また、会計に明るい方であれば、「トークンの無償発行と発行したトークンはそれぞれ別個の取引であり、2つの取引一体としてみるべきではないだろう。」と主張されるかもしれない。

 

これも反論としては論点がずれている。

論点は「取引が別個か一体かではなく」、「関連している取引」か否かである。判断軸が違う。

 

「関連する」という文言の呪縛を回避するためには「発行した」という事実を完全に消さなければ安心できないというのが僕の感覚だ。

 

そこで、

「資本関係のない他社にトークンを無償発行してもらって、この会社を合併する」だ。

「トークンを発行する」という取引法上の行為の結果を「合併」という組織法上の行為で取り込むというアクロバティックな方法だが、

・(一般名詞としての)取引を実行したのは他社

・会計上の取引であるCEX上場を行ったのは当社

この法人格を分ける意義は大きいと考える。なぜなら、合併という行為の会計上の取り扱いはBS残高を取り込むことであり、「取引」を取り込むことを前提としていないからだ。

これにより収益認識会計基準の適用対象外とされている「暗号資産に関連する取引」を否定しにかかることができるのではないかと考えている。

以上が、合併スキームを推す理由だ。

 

「そこまでやる必要なくない?」という意見はごもっとも。僕もやりすぎな気がする。

しかし、ただでさえ人手不足で喘いでいる監査法人が、、クライアントがトークン発行なんてされたら、、そもそもよく分からんし、リスクも取らなければならないし、本当に困る。なので、そんな会社断りたい。というのが本音だろう。なので、手段を択ばず本気で抗う可能性はある。

 

という監査法人の事情を踏まえて、1mmの隙のない対応が必要だろうというのが僕の意見だ。

 

まとめ

少し論理が取っ散らかっているので、最後にまとめる。

・暗号資産を販売すると監査法人は監査を受けてくれない

・よって、将来暗号資産になるトークンを発行したという実績も残したくない

・収益認識会計基準の文言の解釈をフックに監査法人が契約解除を迫ってくる可能性があるから

・したがって、トークンを発行したという実績は外部の他社にやってもらう

・これを合併で取り込む

・合併で取り込んだトークンが後日時価が付く

・トークンを無償発行し、後日トークン上場したのと同じ結果を得られる

 

以上、最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 

 

 

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