8月31日、今年も例年通り8月最終日に税制改正要望が各省庁からリリースされた。
僕が追っかけているweb3×スタートアップという文脈では、経産省からスタートアップ関連税制が4本も出た。
・エンジェル税制の拡充
・ストックオプション税制
・出国税のハードルハードル下げ
・自社発行暗号資産の期末時時価評価課税の繰延
以下、経産省のHP参照
https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2023/pdf/06.pdf
過去に税制改正を経験した感覚からすると異例中の異例という感じ。
何が?
ベンチャー税制がここまで充実しているのは。
「スタートアップ創出元年」と岸田総理大臣もスタートアップ支援に前のめりなことがこのあたりの政策にも色濃く出ている。
僕が最も関心のある暗号資産税制については、8月25日に読売新聞が報道した内容と大きく齟齬はなく、想定通りと言えば想定通り。
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220824-OYT1T50011/
この税制改正要望の詳細な話は別途機会を設けるとして、ここでは税制改正という行政特有のプロセスについて少し解説したい。
税制は法人税法、所得税法、相続税法などそれぞれの税目ごとに法律で定められている。
法律である以上、国会に提出され、衆参両院で審議され、可決、施行というプロセスを踏む。
論点2つ。
・誰が国会に提出するのか?
・誰が審議するのか?
後者は国民の代表である選挙で選ばれた国会議員。これを知らない人は殆どいないだろう。
それでは前者の問いはどうだろう?これは分からない人は意外と多いのではないか?
もったいぶらずに結論を言うと、国会に法案を提出するのは行政(であるケースが殆ど)。すなわち、行政の最高意思決定機関である内閣が閣議で決定されたものが国会審議に回される。
ビジネスマンがイメージしやすいように例えると、取締役会で議案を決定し、株主総会で承認を取るのと似ている。
ここまではイメージしやすいのではないだろうか?
では、会社でいうところの取締役会である閣議に法案を提案をするプロセスを少し掘り下げる。
これも会社と同じアナロジーで表現することができる。
社会人の方は新たな取引先と契約を結ぶ際に稟議や決済を取る社内プロセスを思い出してほしい。
事業部が起案し、法務部が契約書をチェックし、オッケーが出ると決済されるのが一般的だと思う。
行政も基本的にこれと同じ。税制を担当する財務省主税局が起案し、行政の中で法務部的な役割を担う内閣法制局が内容を確認の上、オッケーが出ると閣議に上がっていく。その後国会に提出、審議、可決、施行という流れ。
これが税制改正の流れ。
ここで話を一旦まとめよう。
会社でいう事業部が財務省主税局。財務省主税局が法案を作成し、会社でいう法務部的な役割を担う内閣法制局が法案をレビュー、会社でいう取締役会である閣議で決定し、会社でいう株主総会である国会で承認、可決、その後、施行になる。(ちなみに、施行は行政が担う。)
ここでちょっと思い出してほしい。
冒頭に出てきた経産省。この税制のプロセスに全く出てこない。
そう。税制改正は財務省主税局の独壇場なのである。
経産省を含む他の省庁(文部科学省、厚生労働省、総務省、農林水産省など)は税制を所管する財務省へ「こんな風に税制を変えてください」と要望することしかできず、それを受けるも受けないも財務省次第というのが実態である。
それを前提に経産省から出ているものを改めてみてほしい。
https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2023/pdf/06.pdf
なかなか霞が関の力関係を垣間見ることができ、味わい深いのではないだろうか?
さて、前置きは長くなったが、今年の経産省の税制改正要望を改めて見てみよう。
スタートアップエコシステムの抜本強化、カーボンニュートラル対応、中小企業の設備投資と経営基盤強化、企業活動のグローバル化の4本立てになっており、一丁目一番地はスタートアップの抜本強化となっている。実に感慨深い。
スタートアップエコシステムの抜本強化は冒頭の通り、エンジェル税制、ストックオプション(SO)税制の拡充、出国税の緩和、自社発行暗号資産の期末時時価評価課税の免除の4つの軸となっている。
僕が担当していた平成31年の税制改正要望と比べると隔世の感がある。当時もベンチャー税制3本立てと言われて、それなりに話題になったが、今年は一丁目一番地で、かつ、4本立て。
https://www.meti.go.jp/main/zeisei/zeisei_fy2019/zeisei_r/pdf/1_01.pdf
この経産省から提出された令和5年度の税制改正要望のうち、スタートアップエコシステムの抜本強化に関する私見はまた別の機会に。