新しい資本主義を標榜する岸田総理大臣。その総理のブレーン原丈人氏から突然発表のあった「自社株買いは資本主義の大原則に反している」という発言。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-02-10/R70JCBT0AFBS01
これに対して、識者を中心に「自社株買いは配当と同じ」「配当もダメというのか?」「何もわかっとらん!!」と大荒れ模様ですね~
https://twitter.com/okunokazushige/status/1491972672682868738?cxt=HHwWhIDSnbbPxrQpAAAA
果たして「自社株買いは資本主義の大原則に反しているのか?反していないのか?」けっこう噛み応えのあるテーマなので、ちょっと解説してみようと思います。
でも、その前に、、、、
「そもそも自社株買いってなんだよ??」っていう方も多いと思いますし、
また、「自社株買いと配当が同じってどういうことだよ?」っていう方も多いと思います。
その辺も丁寧に説明しつつ、「自社株買いは資本主義の大原則に反しているのか」について僕が思うところを書いていこうと思います。
まずは自社株買いを超簡単に解説するところから始めていこうと思います。
それではいきます!!
自社株買いとは
自社株買いとは、株主に対して発行した株を株主から買い取ることです。以上。
さすがに、、、これだと次の展開が全く期待できないので、少しだけ補足しますね。
もう少しだけちゃんと説明すると、自己株買いとは、株式会社が自ら発行した株について、その株を持っている株主にお金を払って買い戻すことです。
これでも全然わからないですよね。少なからず、資本主義の大原則に反しているなんて言われても全然ピンとこないですよね。説明します。
ポイントは、、、
株主にお金を払って株主から株を買い取ることです。
自社株買いと配当
繰り返しになりますが、自社株買いは、株主にお金を払って株を買い取ることです。
また、(これはさすがに説明不要かと思いますが、、)配当とは、儲けを株主に分配することです。端的にいうと、株主にお金を配ることです。
自社株買いは、株を買い取り、お金を株主に払っている。そして、配当は、株主にお金を配っている。
会社から株主にお金が流れている点が自社株買いと配当の共通点です。
よって、「自社株買いは配当と同じ」と考えることが多いのですが、これが多くの識者が「新しい資本主義は配当を否定しているのか?」と主張する背景になります。
じゃあ、「自社株買いは資本主義の大原則に反している」と主張する岸田総理のブレーンの方の根拠は何なのでしょうか?
ここを少しひも解いていこうと思います。
ここから先の最大のポイントは、、、「その金は誰の金だよ?」っていうことです。ここでいう「その金」は株主に払う(配る)金」を意味します。
「えっ?株式会社は株主のものだから、その金はもちろん株主の金でしょ?!」って、、思うかもしれません。
確かに株主の金なんですが、、、でも、ちょっとだけ違うんです。
株主の金ではあるのですが、その金を「何の制約もなく」株主に返すことが問題にはなるのです。そうなんです。ポイントは「何の制約もなく」ってやつです。
ここまで一旦整理します。
- 株式会社は株主のもの。
- したがって会社の金は株主のもの。
- でもその金を株主に返すのには制約がある
ってことなんです。何を言っているのか?もう少しちゃんと説明していきますね。
制約1)借金の返済が先
会社のお金は株主のもの。なぜなら、株式会社は株主のものだから。間違っていません。。
何も間違っていませんが、でも、株主に「返す」ということには制約があるのです。
そろそろ、本論に入りましょう。
「制約」とは一体何なのか。
例えば、銀行に借金があったとします。会社にある株主のお金は、銀行の借金の返済に充てられるでしょうか?もしくは、株主のお金なのだから、借金を踏み倒してでも、株主に返していいでしょうか?
ここまでの話の流れと、みなさんの直感の通り、会社のお金は株主に返す前にまず借金の返済に充てられるのです。
銀行の借金を踏み倒して、株主にお金を返すなんてできません。
会社が株主にお金を返しても許されるのは、借金を返し終わったあとに会社に残った分だけです。
この順序が超大事。まずは借金返済。残ったら、株主に返しても可。この順番が逆になっては絶対ダメなのです。何があってもまずは借金の返済からです。
この順序が後ろであることが、ずっと言っている「制約」ってやつの1つ目です。
制約2)元手と利益
話を少しだけ戻しましょう。会社にお金があります。銀行の借金を返済しました。でも、まだお金は残っています。この残ったお金は株主に返していいんですか?もう銀行が取り立ててくることはありません。だって借金返したんだから。
これで晴れて株主に返してよさそうですが、まだまだ制約ってやつがあるんですよ。2つ目の制約について、「元手と利益」というテーマで少し話したいと思います。
「会社は株主のもの」と言われる所以は、株主は会社のために元手を出してあげたからなんです。元手についてちょっとだけ例を挙げると、
- ラーメン屋をやるためにお店作る費用を出してあげたから
- タクシー屋をやるために車を買うためのお金を出してあげたから
- ネイルサロンをやるために、表参道のおしゃれなビルの家賃を出してあげたから
こんな感じで、、、つまり、、株主は最初の種銭を出してあげた人なんです。
株主が出してあげた元手を使って、儲けたものを利益といいます。
ここまでの前置きを2つ目の「制約」の話を引き付けると、株主に返していいのは儲けた分だけ、つまり利益の部分だけということになっています。株主が最初に出した元手の部分を株主に返したらダメなんです。
なんで元手はダメで、利益はいいのか?
それは利益は成果であり、元手は成果ではないからなんです。
元手も利益も株主のものに変わりはありません。そして、銀行に借金を返したから、元手も利益も返していいじゃんって思うかもしれませんが、、ところが、、、元手は返しちゃダメよ!って法律でなってます。繰り返しですが、株主に返していいのは、成果とした儲けが確定した部分だけなのです。
いよいよ本題です
ここまで引っ張って、、引っ張って、、、だいぶん前置きが長くなりました。すみません。
さぁ、、いよいよ本題です。「自社株買いは資本主義の大原則に反している」でしょうか?
その前にもう一度だけ復習です。
- 自社株買いは株主のお金を返すこと
- 会社のお金は株主のもの
- でも、銀行の借金は先に返済しないとダメ
- 借金を返済しても、全部を株主に返したらダメ
- 儲けた分は返していい
- 元手の分は返したらダメ
以上を踏まえると、、、
お金を株主に返すことができるのは利益として儲けた分だけとなり、元手の分は返したらダメということになります。ここまでが復習です。
それではここからあてはめにいきます。
自社株買いの前にまずは配当から。
配当、すなわち株主に配るお金は儲けた分だけとなります。「株主のみなさまに元手を出していただき、そのお陰で儲けることができたから、儲けを分配させていただきます。」というのが配当になるからです。
では、自社株買いはどうでしょうか?
くどいようですが、自社株買いの定義をもう一度。「自社株買いとは、株主に対して発行した株を、株主から買い取ること」です。
勘のいい方はお気づきかもしれませんが、自社株買いは「株を買い取る」ということなので、元手の部分も含めて返していることになります。儲けの部分以外も返しちゃっているのです。
ここが岸田総理のブレーンがいう「自社株買いは資本主義の大原則に反している」という論拠ではないでしょうか。
一応、法律上では自社株を買うことは例外的に許されていて、その例外は儲けがある場合で、その儲けの範囲においてとなっています、、しかしながら「自社株買いには元手も含まれている」というのが、儲けに限定されている配当との大きな違いなのです。
結論
僕の結論としては、岸田総理の主張もイマイチだし、総理に反発する識者の主張も片手落ちだし、、、う~んどっちもどっちだなと思いました。
まぁ、、そもそも「自社株買いは資本主義の大原則に反している」はどう考えても言いすぎだろうなと思います。
「資本主義の中における株式会社制度の大原則に反している部分も一部はある」というのが正しい主張だと思います。まぁ、、歯切れは悪いですが(笑)
一方で、識者も「自社株買いは配当と同じ」と言い切るのも言い過ぎで「自社株買いは株式そのものを買い取っていることから、元手の払い戻し部分が含まれている。一方で、配当と同様に利益がある場合に制限されているため配当と同様の実態がないわけではない」というのが正しい主張だと思います。まぁ、、こちらもこちらで歯切れは悪いですね(笑)
まぁ、、正しく主張しようとすれば歯切れは悪くなっちゃいますが、、まぁ、このテーマは資本主義を理解するうえで非常に重要なテーマだと思ったので、少し深堀って解説してみました。どなたかの参考になれば幸いです。