「日本の税制がweb3の進行を阻んでいる!」
「税制が酷くてweb3領域のビジネスは日本で起業できない。海外で起業するしかない!」
こういう主張が最近非常に多いみたいで、どうやら本当に優秀な若い起業家は海外で起業しているみたいです。
日本の税制のどこに問題があるかというと、「トークンを時価評価して評価益に課税される」という点で、
端的に言うと、会社が持っているトークンの価値が上がったら、「価値が上がった分だけ儲けたでしょ?じゃあ税金払っていただきます。」という点です。
何が問題かというと、トークンを発行した会社は通常それなりの量のトークンを持つものですが、その価値が上がったら、「儲けてるんだから税金を現金を払ってよ!!」と国が税金の取り立てにくる点です。
時系列に沿って説明すると以下のような感じです。
- トークンの価値が上がる。
- しかし、トークンを売ることができない。
- よって、現金は持っていない。
- 税金を支払うことができない。
- 税金を払うためにトークンを売らないといけない。
- トークンを売ると、そのトークンの価値自体が下落する。
- または、トークンの持っている量が減り、組織運営をするパワーが弱くなる
- さらにトークンの価値が下落する。
- 会社の存続が厳しくなる
こんな感じで、負のループから抜けられなくなります。
もし、仮にトークンの価値が上がっても課税されないならば、
- トークンの価値が上がる。
- 価値が上がっても税金がかからない
- よって、トークンを売らなくてもいい。
- トークンの持っている量が維持できるため、組織運営をするパワーを継続して持ち続けられる
- (売ることがきっかけで)トークンの価値が下がることもないし、会社運営が危うくなることはない
と、、、税制が原因となって負のループに陥ることは少なからずないのです。
どうやらシンガポールとかドバイの税制では、持っているトークンの価値増加分(つまり評価益)に課税されないので、web3の領域での多くの起業家は日本を飛び出し、シンガポールやドバイに行って、起業するのがデフォルトのようです。残念な限りです。
それを防ぐために「税制改正をするべきだ!!」というのが、主張の背景にあります。
しかし、、、じゃあ、、
何を改正する必要があるの?
それはどうやってやるの?
という具体についてはあまり情報が出てないなぁと思っていて、ここから先はこの2点について、解説してみたいと思います。
公認会計士で税務に知見があり、web3領域については少しは詳しく、かつ、元官僚として税制改正や法改正をやってきた僕が、その方法についてご紹介させていただきたいと思います。
それでは、、、「何を改正するのか?」というところから説明しようと思います。
じゃあ、行きます!!
何を改正するのか?
web3領域での起業を日本でもできるようにするために「何を」改正する必要があるのか?
実は、、、これってそんなに難しくありません。
なぜなら、論点は非常に明確だし、方法論も限られているからです。それでは論点と方法論について、説明していきますね!
- 論点
ポイントは持っているトークンの価値が上がっても、そこに税金を課さないということです。
少し専門的な言葉で言うと、トークンの時価評価課税を繰り延べるということです。
何を言っているか分からないですよね??
大丈夫です。説明します。
100円で買ったトークンの価値が150円になった場合、50円分儲けてるから、50円について税金を課すことを時価評価課税といいます。
でも、、、確かに50円分は価値が増えていますが、、それって本当に儲けているだっけ?という疑問がわいてきます。
だって、トークンを売ってお金に換えているわけではないから、「儲けているわけではないよね」ということも一方では言えるのではないかと思います。
そこで、別にすぐにこのトークンを売って儲けようとしているわけではない場合、確かに価値は増えているものの、「とりあえず今のところは課税するのをやめておこう」というのを繰り延べるといいます。「トークンを売って最終的に儲けが確定したときに税金を課そうよ」という考え方です。ちなみに、個人の所得税についてはこういう取り扱いになっています。会社について、即ち法人税については「価値が増えているんだから、その分税金を払ってください」という取り扱いになっているんですね。
この時価課税の繰り延べを行うことで、少なからず、トークンを持っているだけではいくらトークンの価値が上がってもそこに税金をかけられずに、長期的な視点に立って事業を伸ばすことができるようになります。
まとめると、こんな感じです。
- 今の日本の税制は、トークンの価値が上がると、価値が上がった分に税金がかかる。
- トークンの価値が上がっても、すぐには税金をかけないように変更したい。
では次に方法論について進めていきます!
- 方法論
「方法論ってなんだ??」
「トークンの価値が上がっても税金をかけないようにするように変更すればいいだけじゃん!」って思われる方も多くいらっしゃるかもしれません。
しかし、、、変更する方法というか、お作法みたいなものがあるので、ちゃんとお作法に則って変更しなければなりません。これについて説明しますね。
あまり知られていないことなのですが、、税制って実は法律で定められているんです。
このトークンの税制については、現状、国税庁から出ているFAQが分かりやすく、多くの人がこれを見ているわけですが、実際には法人税法という法律によって定義されています。
法人税法という法律に定義されているということは、
法律だから、、、国会にて審議され、多数決で可決されて成立。その後、行政により施行されていくわけです。
ポイントとなるのは「国会の議論を受けて成立している」という点です。
「ん??いきなりなに?」って感じですよね。
大丈夫です。ちゃんと説明しますね。
国会は選挙により選ばれた国民の代表者である国会議員が議論して、意思決定する場です。
従って、そこで決定されたものは国民の意思ということになるんです。
つまり、法人税法は国民の意思により決定されているといえるのですが、、、「トークンの時価評価について時価評価課税を繰り延べます」なんて国民の何%が賛成するでしょうか?
「いやいや」、、っていうか、そもそも国民の何%が理解できるでしょうか?
0.01%くらいじゃないでしょうかね?わかんないですけど。。。。
だから、web3の起業家を中心に「日本の税制がイノベーションを妨げている!」といくら主張しても「そんなの知らん!!」というのが国民の総意なのではないでしょうか。
だから、そう簡単に税制を変えることもできないし、
ましてや、、「トークンの価値が上がって10億円も儲けている会社から税金を取らない」という税制改正がなされたとすると、国民感情的に受け入れられるか?というとちょっと厳しいのではないかと思っています。
コロナにおける荒れ果てたSNSや自粛を強要する国や自治体の対応見ても、「トークンの時価評価をしない」という税制改正は国民の合意を取ることができないと思っています。
「じゃあ、、、どうすんの?」って思いますよね。。。
これについては、正門から突破するのは極めて難しいと思っていて、裏道から登って行くしかないと思っています。
その裏道とは何か??というと、、、「法人税法」の改正ではなく、「租税特別措置法」という別の法律の改正です。
租税特別措置法???
「なんだよ?それ?」って感じかもしれませんが、
その名前の通り税の例外規定を取りまとめた法律です。この例外規定を取りまとめた租税特別措置法から攻めていくしかないと思っています。表玄関からは無理。なので、裏口から攻めるしかない!というのが、僕の意見です。
ここまでの議論、論点と方法論をまとめます。
- 【論点】トークンの時価評価課税を繰り延べる。(=価値が増えた分について課税しない)
- 【方法論】法人税法の改正ではなく、租税特別措置法の改正を攻める
それでは、、じゃあ、どうやって租税特別措置法において、トークンの価値増加分を課税しないようにする税制改正を実施するか、ここから先はそのhowについて、解説していきます。
どうやって改正するの?
ここから具体的にどうやって改正していくか?という話をしたいのですが、具体の話に進む前に、一度立ち止まって、そもそも租税特別措置法についてもう少しだけ触れておくことにします。
コトバンクによると、租税特別措置は「経済政策や産業政策などの政策的な見地に基づいて、(中略)特定の産業部門(中略)の税負担を軽減する(中略)措置をいう」とあります。
そういうと、ちょっと詳しい方から「いやいや、、税の制度の根幹には課税の公平性っていうのがあってだね、、特定の産業部門の税金を軽減するなんて許されるわけないだろう!!」って反論されそうです。。
これは本当にその通りで、納税は日本国憲法に規定されている国民の義務だから、みんな等しく義務を負っているわけで、特定の誰かを優遇するなんて許されることではないのです。
しかし、実は特定の産業部門をエコひいきすることを歴史的にこの国ではやってきているし、そして、いまだにその制度は残っているんです。コトバンクには次のようにも書かれてます。
「課税には公平の原則といわれるものがある。同一の所得状況にある者は同一税を負担するというこの原則に、租税特別措置は重大な例外となるので、追及される目的が真に国民にとって必要なものか、その目的達成のためにその措置が有効かどうかつねに検討しなければならない」
つまり、、「エコひいきは原則ダメだけど、本当にエコひいきが必要な場合なら、ちゃんと説明すると認めてあげるよ。」ということですね。
政府は「経済・産業政策として必要だから、今回のトークンの価値増加分に対して税金を取りません。」と説明することができれば、例外措置としてトークンの価値増加分について課税をしないことができるのです。例外中の例外としてですけどね。
ここまでの話で、トークンの価値増加分、即ち、値上がり分について税金を課さないことについて、その理屈と、方法論と、その突破口までまとめてきました。
ここから、最後の仕上げに向かっていきますね!!
ポイントは「誰がやるのか?」すなわち、「誰の責任においてやるのか?」ということですね。
話を続けます。
税金を含めた法律の議論で、よく出てくるのが、必要性と許容性という議論です。
「ん??」と思った方、少し難しいですが、ちゃんと説明しますので、安心してください。
- 必要性とは、その法律を変える必要って本当にあるんですか?っていう話です
- 許容性とは、その法律を変えることはこれまで脈々と続いてきた法律の背後にある思想に反しないですか?っていう話です
この2つ、必要性と許容性を乗り越えることができると、法改正は理屈の上ではできることになります。
じゃあ、誰が必要性と許容性を説明し、誰の責任において税制改正をやるか?というと、、、、
結論を言うと、経済産業省になると思います。
なぜなら、経済・産業政策の観点からトークンの税制改正は必要だと主張していくからです。経済・産業政策を担っている役所はどこですか?っていったら、それは経済産業省になりますからね(もちろん、経産省は許容性の議論も併せて主張する責任がありますけど、そこは割愛します)。
「web3の領域で日本でもビジネスが行えるようにするためにトークンの価値増加分の課税については課税しないでほしい」と経済産業省が税制を司っている財務省に要望し、財務省に「経産省がそこまでいうなら仕方ないね」といって認めてもらう段取りで税制改正にこぎつけます。
そして、財務省の理屈して「経産省がそこまでいうなら仕方ないね」っていう前提として、財務省は「誰でもトークンの課税をしないのはダメだよ!ちゃんと経産省が認定した会社だけにしてよ!」と言うはずです。
ちょっと複雑になってきたので、ここまでを少しまとめますね。
- 基本的にトークンの値上がりについては課税をするという大方針は変えません。
- ただし、経済産業政策の観点から経産省が認めた会社が発行するトークンの値上がりだけは税金を課すのを免除してあげるよ。
- なぜなら、経産省が責任を取るんだから。
と、、、こんな感じで、進めていくことになると思います。
さぁ、いよいよ大詰めです。
「経産省が責任を取るってどういうこと?」って思った方がいらっしゃるかもしれませんので、最後にここを説明して終わりにします。
トークンを発行している会社すべてに対して値上がり分について税金を免除してあげるということはできないでしょう。
繰り返しですが、これはあくまでも例外規定だからです。
さらに言うと、「クリプトはまだまだ怪しい」という認識が多くの方にあり、さすがに全員に税金を免除するというわけにいかず、そのために誰がイケていて、誰がイマイチなのかをスクリーニングをかける必要があるからです。そして、それを責任もってやるのが経済産業省になるということですね。
具体的には、どうやってスクリーニングをかけるかというと、、、実はスクリーニングをかけるのに最適な法律を経産省は持っているのです。経産省は法律を持っているというと、ちょっとイメージわかないですかね。失礼しました。
経産省が所管している法律で、スクリーニングをかけるためだけに作られているのではないか?というような法律があるのです。
その法律は、、、、、、、、、「産業競争力強化法」といいます。
う~ん、、、なんか屈強そうな名称ですが、、実はこの法律って、産業競争力の強化につながりそうな、事業再編とか事業再生とかファンドとか諸々を認定し(=スクリーニングをかけて)、税務上のメリットを与えたり、法律の例外規定を使わせてあげたり、色々と便宜を図っている法律なのです。
この産業競争力強化法にトークンやその発行者の要件を定めて、それを満たすトークン発行者を経産省が認定する。
そして、その経産省が認定したトークン発行者に関してトークンの価値増加分の税金を免除するという規定を租税特別措置法に新たに策定するという2段構えこそが、トークンの時価評価課税を回避する最も確率の高い方法ではないかと思います。
さいごに
長文お付き合いいただきまして、ありがとうございます。
公認会計士であり、web3について少しだけ詳しく、また、経産省で税制改正や法改正を対応していた僕が、トークンの時価評価を回避する税制改正までの道のりを解説してみました。
皆様の理解に少しでも役立ち、法改正に向けて前向きな議論につながれば幸いです。